アニメMVが熱い!9本の名作で見るその魅力
日本の音楽とアニメーションは、今や日本文化の象徴的なコラボレーションとして世界的に注目を集めています。アニメの主題歌やエンディング曲がヒットチャートを席巻する一方で、近年ではアニメーションがミュージックビデオ(MV)の主要な表現手法としても活用されるようになりました。音楽とアニメが融合することで、視覚と聴覚の両方で観客を魅了する新たな形態が生まれています。
この記事では、単に「アニソン」やアニメ作品の関連楽曲を紹介するのではなく、アニメーションを駆使したMVに焦点を当てます。アーティストの顔出しを必要とせず、その代わりにアニメの世界観を全面に押し出した作品や、アニメーションならではの表現力を活かしたMVの数々を厳選しました。
実は、日本には数多くのアニメ制作会社が存在しますが、彼らはアニメだけを制作しているわけではありません。ミュージックビデオやテレビコマーシャルといった多様なメディアでも活躍しており、そこで生まれる独創的な作品が、音楽シーンに新たな風を吹き込んでいます。それでは、音楽とアニメーションが織りなす9本の魅力的なMVをご紹介しましょう。
米津玄師『海の幽霊』
この楽曲は、映画「海獣の子供」主題歌です。原作は、同名の五十嵐大介のマンガです。楽曲を手掛けたのは米津玄師です。私は米津玄師のファンですが、彼の作品の中でもこの楽曲は1、2を争うほど大好きな楽曲です。
このMVは映画「海獣の子供」のシーンをうまくつなぎ合わせて作成されたものです。楽曲がそもそもこの映画のために作られているわけなので、当然曲とMVの相性はよく、私はこのMVを観て、その日のうちに、映画「海獣の子供」が上映している映画館を調べ、その日の夜に観に行きました。それくらい、アニメとしての完成度が高く、これは映画館で見るべき作品だと直感しました。
ハチ『ドーナツホール 2024』
ハチ(米津玄師)が2013年に発表したボーカロイド楽曲「ドーナツホール」の新バージョンが、2024年に公開されました。オリジナル版は、ハチ自身が書き下ろしたイラストをつなぎ合わせたMVでしたが、新バージョンでは完全なアニメーションとして制作され、当時のファンはもちろん、新しいファンにも新鮮な驚きを与えました。
この新作MVは、「少年漫画のような世界観を目指して作られた」というコンセプトがそのまま形になっています。映像はまるで独自の物語を持つアニメ作品のようで、視覚的な魅力と深い没入感を提供しています。
また、このMVのコンセプトは、アルバム『LOST CORNER』の世界観を引き継いだものです。特に「壊れていてもかまいません」という廃品回収車のアナウンスにインスパイアされたテーマが反映されています。このアルバムは2024年にリリースされ、MVはアルバム発売から約1か月後に公開されました。このタイミングは、アルバムのテーマをさらに深く体験させる演出として機能しているようです。
米津玄師『パプリカ』
この楽曲は、東京オリンピック・パラリンピックの公式応援ソングとして製作され、小学生ユニット「Foorin」によって歌われたものです。その後、楽曲製作者である米津玄師によってセルフカバーされ、2020年にリリースされた大ヒットアルバム『STRAY SHEEP』に収録されました。
ミュージックビデオ(MV)は全編を通じて日本の夏の明るく活気ある雰囲気を描いていますが、同時にどこか寂しさを感じさせる内容でもあります。この感覚は、ビデオを最後まで見ると理解できるはずです。日本では夏にお墓参りをする風習が古くからあり、この文化的背景が映像に反映されているとも言えるでしょう。
また、この楽曲は「四七抜き音階」と呼ばれる日本特有の音階を用いて作られています。四七抜き音階は、日本の童謡や民謡、さらにはJ-POPでもよく見られる音作りの一つで、日本人にとってどこか懐かしい雰囲気を自然と感じさせるものがあります。そのため、この楽曲には日本の伝統的な音楽的要素と現代性が絶妙に融合していると言えるでしょう。
ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ『Fly with me』
「Fly with me」のミュージックビデオは、近未来のサイバーパンク的アジアを舞台にしたフルCGアニメーションで制作されています。この映像では、社会の階級格差と個人の自由をテーマに描かれており、視覚的にも内容的にも非常に印象的な作品です。
主人公は、水晶の中に存在する世界に住む一般人として登場します。一方で、上流階級は怪物のような姿で表現され、下層の世界を支配し操作しています。物語の序盤、主人公は洗脳されたように戦いますが、次第に自分が操られていることに気づいていきます。最終的に、彼が選択した行動は支配からの解放を象徴し、既存の価値観への挑戦を明確に表現しています。
このアニメーションは、現代社会の問題を風刺しつつ、自由を求める個人の闘いを描いた作品でもあります。製作費は数千万円に上るとインタビュー記事で読んだ記憶がありますが、その費用に見合うだけのクオリティとスケール感が映像からも伝わってきます。確かに、このMVは他の作品と比較しても、相当な制作費がかかっていることが一目でわかるでしょう。
Vaundy『不可幸力』
一見するとシンプルで物語性がないように思えるアニメMVですが、不思議と心に引っかかるものがあります。このMVでは、常にカラスが映し出されている点が印象的です。郵便ポストや三角コーン、ガードレールといった街を構成する人工物や、部屋の中外を問わず目に入ってくるスマホなどが描かれる一方で、人間の姿が一切描かれていません。この「人間不在」の描写が生む違和感こそ、このMVの特殊性であり、視聴者に何かを問いかける重要なメッセージではないでしょうか。
一方で、楽曲の歌詞には寄り添い合いながら生きる人々の営みが描かれています。この歌詞とMVの対比は、制作者が意図的に仕掛けたものかもしれません。MVで描かれる孤独や疎外感が、歌詞に描かれた「寄り添い合うこと」の大切さを逆説的に際立たせているように感じられます。この対比は、視聴者に「理想と現実の間にあるギャップ」や「人とつながることの価値」を考えさせる力を持っています。
歌詞が語る希望と、MVが描く孤独。この二つの要素が交錯することで、作品は単なる視覚化にとどまらず、見る人に深い思索を促す構造となっています。このギャップが、視聴者の心に強く響く理由なのかもしれません。
ずっと真夜中でいいのに。『お勉強しといてよ』
「ずっと真夜中でいいのに。」は、日本の音楽シーンで独自の存在感を放つ顔出ししないアーティストとして知られています。ライブパフォーマンスでも、巧妙な照明を駆使してボーカルの顔を映さない演出が徹底されており、ミステリアスなイメージを維持しています。
さらに、このバンドのMVはすべてアニメーションで制作されており、視覚的な特徴が音楽と同様に注目を集めています。そのアニメーションは、現代的なファッションと80年代・90年代の日本文化を融合させた独自の世界観で構築されており、どこか懐かしさを感じさせつつも新鮮な印象を与えます。このビジュアル表現は、バンドのイメージを強固なものにし、リスナーに鮮烈な印象を残す要因のひとつと言えるでしょう。
星街すいせい『ビビデバ』
星街すいせいは、VTuber(バーチャルYouTuber)として活躍するアーティストです。彼女のミュージックビデオ(MV)は、アニメと現実世界の融合が巧みに取り入れられた非常に面白い作品となっています。この手法は近年のアニメ制作でもよく見られますが、彼女のMVではその融合が自然かつ効果的に機能しています。
特に注目すべきは、ワンカットでこの融合を達成している点です。シームレスにアニメと現実が交錯する映像は、視覚的な楽しさをさらに引き立てています。また、このMV内の物語は、明確にシンデレラのストーリーを意識しており、曲名もそのテーマにちなんで付けられています。シンデレラの物語をモチーフにしつつ、現代的なアレンジを加えた演出が新鮮で魅力的です。
BUMP OF CHICKEN『Acacia』
このミュージックビデオは、ポケモンとBUMP OF CHICKENのコラボレーションによって生まれた特別な作品です。映像は、ポケモンの長い歴史を振り返るような構成になっており、懐かしさと新しさが見事に融合しています。その結果、新旧問わずすべてのファンにとって心を熱くさせる仕上がりとなっています。
楽曲はスピード感や明るさを持ち、それが映像と完璧にマッチしています。ポケモンの冒険心や楽しさを象徴する映像美が楽曲のエネルギーを引き立て、視覚と聴覚の両面で感動を与える作品になっています。このコラボレーションは、音楽と映像が互いに高め合う素晴らしい例と言えるでしょう。
くるり『琥珀色の街、上海蟹の朝』
この楽曲は、2016年にくるりのデビュー20周年を記念して制作されました。くるり自身が「今までとは違った楽曲を意識して作った」と語っており、確かにヒップホップやラップを取り入れたくるりの新しい一面が感じられる曲です。この新鮮さと、時代に合ったサウンドが評価され、この曲はくるりの中でも最も多く聴かれている楽曲となっています。
ミュージックビデオ(MV)のアニメーションは、タイ出身の漫画家Wisut Ponnimitによって手掛けられました。日本のアニメとは異なる独特のタッチと温かみが特徴で、楽曲に新しい魅力を加えています。Wisutのスタイルが、楽曲の持つ個性を引き立て、視覚的にも印象深い作品に仕上がっています。
アニメMVが描く今後の可能性
アニメMVは、音楽と映像の融合によって新たな表現領域を切り拓いています。これまでのアニメーションが物語やキャラクターの深掘りに重きを置いてきた一方で、アニメMVは音楽のリズムやメロディに合わせて視覚的なインスピレーションを創出することで、感情とビジュアルのシナジーを生み出しています。この双方向のコミュニケーションは、視聴者に対してより深い感動と共感を提供し、音楽の新たな楽しみ方を提案しています。
さらに、最新のCG技術やVR技術の進化により、アニメMVはますます多様化し、インタラクティブな体験を可能にしていくはずです。
国際的なコラボレーションもアニメMVの可能性を広げる鍵となっています。異なる文化やスタイルが融合することで、これまでにない独創的な作品が生まれ、グローバルな視聴者層にリーチするチャンスが増えています。例えば、日本のアニメーション技術と海外の音楽シーンが融合することで、国境を越えた新しいジャンルの創出が期待されています。
さらに、AI技術の導入により、アニメMVの制作プロセスも大きく変革しつつあります。無名のアーティストが作り出す突拍子もないアニメMVなんてものも出てきそうで楽しみですね。
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